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Law


移民法・雇用法ニュース
永住権 ポイント・システム

今月8月2日に、米国経済立直し、米国市民の雇用促進のための移民法改正法案(RAISE ACT)が共和党により提案されました。この法案は、永住権申請にポイントシステムを導入することにより、移民の年間受入枠を現在の年間100万人から半分の50万人に減らすことを目的としています。家族スポンサーの永住権申請では、米国市民がスポンサーできる家族の対象から親兄弟を外し、スポンサーの対象を配偶者と未成年の子供に限定しています。この法案により、現在永住権の順番待ち中の250万人ものアメリカ市民の兄弟や成人の子供は、永住権申請の資格を失うことになりかねません。また、この法案は亡命者の受け入れ枠を5万件までに減らし、年間5万枠の抽選による永住権を撤廃することも提案しています。


ポイントシステムでは、家族の繋がりや経済的需要とは関係なく、機械的に学歴や収入などの条件に応じてポイントが加算されます。特に理数系 (STEM) の高学歴者、高収入所得者や起業家を優遇することにより経済を促進し、英語を話さない未熟練労働者やその家族の数を減らすことにより新移民による福祉負担を軽減し、アメリカ人の未熟練労働者の雇用の促進を図ろうとしています。提案されているポイントシステムでは、次のような項目に対しポイントが加算されます。英語能力判定により0~12点が与えられる。年齢によるポイントでは26~30歳は10点、22~25歳は8点、31~38歳も8点、18~21歳は6点、36~40歳は6点、41~45歳は4点、46~50歳は2点、51歳以上にはポイントは与えられません。学歴に関しては、高卒者には1点、外国の学士号に5点、アメリカの学士号に6点、外国のSTEMの修士号は7点、アメリカのSTEM修士号は8点、外国のプロフェッショナル学位・STEMの博士号は10点、アメリカのプロフェッショナル学位・STEMの博士号には13点が与えられます。賃金レベルに関しては、当該州の平均賃金の150~200%の支給を受ける者は5点、平均賃金の200~300%は8点、平均賃金の300%以上を受給するものには13点が与えられます。投資者に関しては、3年間新規事業に135万ドルの投資をし、積極的に事業を管理する者には6点、この投資額が180万ドルであれば12点が与えられます。また、国際的な賞の受賞者も重視され、科学や社会学の分野でのノーベル賞受賞者もしくは同レベルの賞受賞者には25点、過去8年間にオリンピックメダルや国際スポーツ競技で優勝した者には15点与えられます。


同システムでは、アメリカ国内で需要の高い看護婦などは初級レベルでは給与レベルが低く、多くが大卒ではないために不利になる可能性があります。また、ベテラン経営者や管理職も、若手でない限りは、年齢上不利になる可能性があります。一般のスポーツ選手や芸術分野の人にも有利な条件はみあたりません。また高学歴者であってもSTEM理数分野の専攻でなければ、学歴上さほど有利にはなりません。上記のような事情から、このポイントシステムはビジネスの需要を考慮にいれていないため、アメリカへの投資意欲を減退させ、またアメリカ国内の起業家自身も他国への投資への方向転換を強いられる結果になりかねないと批判を浴びています。


永住権のポイントシステムはカナダやオーストラリアでも既に採用されていますが、これらの国は自国の移民の数を増やそうという目的でこのシステムを採用しているのに対し、アメリカのポイントシステムは移民の数を減らすことを目的としています。また、このポイントシステムは、ビジネスが必要とする特定の知識はスキルを無視しているため、果たして政府が目標としている米国経済立直しになるのかどうか、疑問視されています。また、このようなポイントシステムは雇用のオファーがなくとも高学歴であれば比較的容易に永住権を取得できるために逆に弊害がでており、実際にカナダでは博士号をもつタクシードライバーが増える結果を生んでいることから、カナダでは国内での雇用オファーがあればポイントを加算するようにシステムに改正点を加えられています。


このポイントシステムが施行されたら、現在永住権申請中の人も、ポイントシステムにより新たに永住権申請に十分なポイントを取得しなければならなくなる可能性がでてきます。また、国別枠により永住権の順番待ちが長いインド、中国、フィリピン出身国者でH1Bを6年目以降も延長している人は、ポイントシステムでの総合点が十分でない場合は、滞在資格もなくなる可能性がでてくるため、今後この法案の行方を見守り、滞在資格を維持する方法を模索する必要があるかと思われます。


執筆:大蔵昌枝弁護士
Masae Okura | Partner
Taylor English Duma LLP
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About Writer

大蔵昌枝弁護士

東京外国語大学中国語学科卒業。サウス・カロライナ州サウス・カロライナ大学ロースクールおよびビジネススクールのJ.D./MBA ジョイント・ディグリー課程卒業、法律博士 (Juris Doctor) および経営学修士 (MBA) の学位を授与される。在学中は、会計監査、法律文書レビュー、外国人学生の移民法関連アシスタント業務などに従事。
2004年にジョージア州弁護士資格取得。
Ogletree, Deakins, Nash, Smoak & Stewart, P.C. 法律事務所、Baker, Donelson, Bearman, Caldwell & Berkowitz, PC 法律事務所、フィッシャー・ブロイルズ法律事務所に勤務の後、2017年8月にTaylor English Duma LLP法律事務所にパートナーとして移籍。雇用法・移民法など日系企業に関わる法律相談。日系のメディアに雇用・移民法記事を掲載。移民法講義やセミナー講師を務める。

著書: アメリカの陪審制度と日本の裁判員制度、陪審制度の発展と意義 (出版社:エディックス ) ”日本図書館協会選定図書” "The American Jury and the New Japanese Judicial System" The Historical Development of the U.S. Jury System, February 10, 2011